彼方 (創元推理文庫)
彼方 (創元推理文庫)
Joris‐Karl Huysmans(原著)
田辺 貞之助(翻訳)
東京創元社
グループ:Book /ランキング:32868
価格:¥ 945
発売日:2000 /通常24時間以内に発送
Joris‐Karl Huysmans(原著)
田辺 貞之助(翻訳)
東京創元社
グループ:Book /ランキング:32868
価格:¥ 945
発売日:2000 /通常24時間以内に発送
カスタマーレビュー
おすすめ度:
暗黒の中世は何と敬虔な光で満ち溢れていたのだろう
(2008-02-09)
1891年のユイスマンスの作品。自然主義を崇拝する作家デュルタルを主人公に彼が題材とした、百年戦争の英雄、戦後は一変して推定800人の男児を虐殺した中世最大の変態性愛殺人狂「ジル・ド・レー」の伝記を書き上げるまでの友人たちとの人間模様を描いた作品。日本は当時、明治の世、過去を脱却し文明開化の歩みをまさに加速せんとする時代、そんな前しか見えず向上意識に沸きあがっている日本と違い、先進国フランスでは既に着々と進む科学文明や政治思想の流れに疑問と反発を覚える文化人も育っている。主人公の親友デ・ゼルミーは医者であり、良きアドバイザーであり自然主義を痛烈に批判する存在だが、小説家が自然主義者で医者がロマン主義者と言うのも逆であり面白い趣向だ。主人公はデ・ゼルミーがけなした人間の食欲と肉欲の観点から物を見る人間自然主義、唯物科学的な視点で稀代の悪魔ジルドレーを分析しようとするが中世の神秘主義の命脈が現在にも脈々と続いている事を実感し忌嫌い、かつ現代社会にも嫌悪を覚え煩悶するが暗黒の中世と言われるもその時代の人々の素朴さ、敬虔さ、人間愛に光を見出す。作中でミシュレの作品を良い歴史作家だが現代の観点に置き換えての見方でしか描けていないとも批判する所などもあるので、ミシュレの作品やホイジンガなど中世物と一緒に読むと面白いかもしれない。他にもジルドレーを題材に選んだ理由でもある自然主義観点の人間性の本質の探求部分にも読む価値があり、結局唯物的観点から見ると歯止めが無ければジルも自分も人間は皆一緒じゃないかと結論に至る。歯止めとは法治国家による治世、帝国の恐怖政治、宗教心と色々なパターンがあるが、作者は他人からのすり込みで無い、自己発展性の内面宗教の方に傾倒する様だ。じゃああなたはこんな小説など書かなくていいではないかとまで考えてしまう。小説の存在意義という意味でも暗に言及しているのも感じられる。この時代に既に来るべき未来に絶望している所が物悲しく、作者は知りようも無かったこれから到来する政治思想と科学文明が高度に混じりあい、まさに悪魔的とも言える激動の時代の経過を現代の私達は知りえている。そんな私達が不思議にも現実に倦み疲れ、過去に現実逃避しようとする19世紀末の大きく揺れ動く前のフランスの停滞する空気と現代の時代の空気との同調性を感じられるこの書物を読む事には大きな意義があると思います。
少なくとも二回読むべき本
(2004-12-03)
「青ひげ」ジル・ド・レーを扱った本ということで、何となく派手な、そして残酷な本を連想して読みましたが、その予想は裏切られました。基本的には、主人公の淡々とした文体が続くので何となく、ざっと読んでしまいます。
おすすめ度:
暗黒の中世は何と敬虔な光で満ち溢れていたのだろう
1891年のユイスマンスの作品。自然主義を崇拝する作家デュルタルを主人公に彼が題材とした、百年戦争の英雄、戦後は一変して推定800人の男児を虐殺した中世最大の変態性愛殺人狂「ジル・ド・レー」の伝記を書き上げるまでの友人たちとの人間模様を描いた作品。日本は当時、明治の世、過去を脱却し文明開化の歩みをまさに加速せんとする時代、そんな前しか見えず向上意識に沸きあがっている日本と違い、先進国フランスでは既に着々と進む科学文明や政治思想の流れに疑問と反発を覚える文化人も育っている。主人公の親友デ・ゼルミーは医者であり、良きアドバイザーであり自然主義を痛烈に批判する存在だが、小説家が自然主義者で医者がロマン主義者と言うのも逆であり面白い趣向だ。主人公はデ・ゼルミーがけなした人間の食欲と肉欲の観点から物を見る人間自然主義、唯物科学的な視点で稀代の悪魔ジルドレーを分析しようとするが中世の神秘主義の命脈が現在にも脈々と続いている事を実感し忌嫌い、かつ現代社会にも嫌悪を覚え煩悶するが暗黒の中世と言われるもその時代の人々の素朴さ、敬虔さ、人間愛に光を見出す。作中でミシュレの作品を良い歴史作家だが現代の観点に置き換えての見方でしか描けていないとも批判する所などもあるので、ミシュレの作品やホイジンガなど中世物と一緒に読むと面白いかもしれない。他にもジルドレーを題材に選んだ理由でもある自然主義観点の人間性の本質の探求部分にも読む価値があり、結局唯物的観点から見ると歯止めが無ければジルも自分も人間は皆一緒じゃないかと結論に至る。歯止めとは法治国家による治世、帝国の恐怖政治、宗教心と色々なパターンがあるが、作者は他人からのすり込みで無い、自己発展性の内面宗教の方に傾倒する様だ。じゃああなたはこんな小説など書かなくていいではないかとまで考えてしまう。小説の存在意義という意味でも暗に言及しているのも感じられる。この時代に既に来るべき未来に絶望している所が物悲しく、作者は知りようも無かったこれから到来する政治思想と科学文明が高度に混じりあい、まさに悪魔的とも言える激動の時代の経過を現代の私達は知りえている。そんな私達が不思議にも現実に倦み疲れ、過去に現実逃避しようとする19世紀末の大きく揺れ動く前のフランスの停滞する空気と現代の時代の空気との同調性を感じられるこの書物を読む事には大きな意義があると思います。
少なくとも二回読むべき本
「青ひげ」ジル・ド・レーを扱った本ということで、何となく派手な、そして残酷な本を連想して読みましたが、その予想は裏切られました。基本的には、主人公の淡々とした文体が続くので何となく、ざっと読んでしまいます。
しかし初読後、2度目に読むとなぜか酷く暗い気持ちになります。
これは、おそらく全体を覆う暗い雰囲気に毒されるためなのでしょう。
個々の表現、描写は、現在のホラー小説に比べれば確かに怖くはないかもしれません。
しかし、その根元にある暗黒は、なんとも読者を暗澹たる気分にさせます。
その理由は何なのか?
これは、この本を読んだ個々人が判断するしかないことなのかもしれません。
いずれにせよ、少々、読み通しにくいことは確かですが、読書好きならば一読か、できれば「二読」をおすすめします。
