戦後性風俗大系―わが女神たち (小学館文庫)
カスタマーレビュー
おすすめ度:
どんな本よりもわかりやすい、戦後の「裏歴史」大全
(2008-09-16)
今は亡き風俗記者の大家、広岡敬一による渾身の一冊です。満州から引き上げ終戦直後の混乱期から朝鮮戦争による特需景気、そして高度成長時代と昭和の歴史をたどる構成ですが、そこは広岡氏のこと。彼が実際に接してきた「性風俗」を軸にして社会の動きをタテにヨコに、ナナメに裏側からたどった渾身の性風俗年代史です。
言うまでもなく、社会や政治の動きと表経済、そして裏経済・裏社会とは密接にリンクしています。建前の表経済だけでは吸収できない「人間の欲望」(といってもほとんど男性限定ですが)は、裏経済・裏社会がたくみに吸収してきました。そこで登場するのは、当時は圧倒的に社会的弱者だった女性であり、戦争ですべてを失った女性が糊口をしのぐためにとる最後の手段は「売春」に選択肢が限られてしまいます。特に冒頭の東京大森に進駐軍のために急遽つくられた日本女性による「慰安所」のくだりは息を飲むようなリアリズムにあふれています。リアリズムにこだわった第一線の風俗記者であり、そして優れたカメラマンだった広岡氏所蔵のおびただしい数の写真が当時の情景を鮮やかに再現してくれています。
読後に改めて気がつくのは、こうしたさまざまな事情があって「春をひさいでいた」女性に向けられる、広岡氏の海よりも深い愛情と温かい視線です。決して興味本位にならず、同じ人間として対等に接した広岡氏だからこそ、写真に残る彼女たちの表情は生々しく、そしてその裏側からさまざまな事情を伝えてくれています。そして、時代がもたらした運命に翻弄されながらも、逞しく生き抜いた彼女のさまざまな思いが伝わってきます。
いま各地の繁華街は「浄化運動」によって、危機的な状況にあるといえます。清潔さや快適さを重視する「表経済」の論理からです。確かに防犯上や衛生面から考えればいたしかたないことかもしれません。しかし、結果として出来上がったのは画一化された息苦しいまでに整然とした街並みばかり。あまりに建前だけを重視すると、いつかは「裏の部分」が頭をもたげてくることは、いままでの歴史が証明しています。必要悪とまで言いませんが、清濁あわせもつ鷹揚さが街にも、社会にも必要だと思うのですが…。
身体で裏付けられた戦後史の記念碑的労作。
(2007-03-27)
解説が、ハイデガー研究の第一人者で、身体論哲学者・メルロ=ポンティの名訳者でもある木田元というのが、まず目を引く。もともとこの本は2000年に朝日出版社から単行本として刊行され、その際に朝日新聞で書評委員を務めていた木田が取り上げた本の一冊だったというのが縁ということのようだ。広岡敬一は満州時代の木田の先輩筋にあたることも明らかになり、そのうち会う約束もあったようだが、果たせず広岡は逝ってしまった。
本文の随所にちりばめられた写真を眺め、各章ごとに添えられる年表をめくるだけでも、戦後が立体的に浮かび上がってくるが、立体的に見える所以はもちろん、帯で唱っている「男たちよ、これを読まずに死ねますか!」が端的に示しているように、戦後の日本を政治・経済・社会にわたって牽引してきた男たちを影でささえていたともいえる一部分がクローズアップされ奥行きを備えてくるからともいえよう。
写真ばかりではない、『トルコロジー』で名を馳せた広岡の緻密な取材とエロティックな文体もこの書物を単なるルポや記録でない作品に仕上げている。ここには戦後の肉体がある。身体的に裏付けられた戦後の歴史がある。ともすれば単線的に作り上げられてしまう歴史=物語に対して、豊かな歴史の存在がある。メルロ=ポンティのいわゆる「肉の存在論」を思わせる内容に、解説者・木田元の名前を見て独り合点するのは私だけではないだろう。
おすすめ度:
どんな本よりもわかりやすい、戦後の「裏歴史」大全
今は亡き風俗記者の大家、広岡敬一による渾身の一冊です。満州から引き上げ終戦直後の混乱期から朝鮮戦争による特需景気、そして高度成長時代と昭和の歴史をたどる構成ですが、そこは広岡氏のこと。彼が実際に接してきた「性風俗」を軸にして社会の動きをタテにヨコに、ナナメに裏側からたどった渾身の性風俗年代史です。
言うまでもなく、社会や政治の動きと表経済、そして裏経済・裏社会とは密接にリンクしています。建前の表経済だけでは吸収できない「人間の欲望」(といってもほとんど男性限定ですが)は、裏経済・裏社会がたくみに吸収してきました。そこで登場するのは、当時は圧倒的に社会的弱者だった女性であり、戦争ですべてを失った女性が糊口をしのぐためにとる最後の手段は「売春」に選択肢が限られてしまいます。特に冒頭の東京大森に進駐軍のために急遽つくられた日本女性による「慰安所」のくだりは息を飲むようなリアリズムにあふれています。リアリズムにこだわった第一線の風俗記者であり、そして優れたカメラマンだった広岡氏所蔵のおびただしい数の写真が当時の情景を鮮やかに再現してくれています。
読後に改めて気がつくのは、こうしたさまざまな事情があって「春をひさいでいた」女性に向けられる、広岡氏の海よりも深い愛情と温かい視線です。決して興味本位にならず、同じ人間として対等に接した広岡氏だからこそ、写真に残る彼女たちの表情は生々しく、そしてその裏側からさまざまな事情を伝えてくれています。そして、時代がもたらした運命に翻弄されながらも、逞しく生き抜いた彼女のさまざまな思いが伝わってきます。
いま各地の繁華街は「浄化運動」によって、危機的な状況にあるといえます。清潔さや快適さを重視する「表経済」の論理からです。確かに防犯上や衛生面から考えればいたしかたないことかもしれません。しかし、結果として出来上がったのは画一化された息苦しいまでに整然とした街並みばかり。あまりに建前だけを重視すると、いつかは「裏の部分」が頭をもたげてくることは、いままでの歴史が証明しています。必要悪とまで言いませんが、清濁あわせもつ鷹揚さが街にも、社会にも必要だと思うのですが…。
身体で裏付けられた戦後史の記念碑的労作。
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